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大阪地方裁判所 平成8年(ワ)12220号 判決 1999年5月27日

主文

一  被告は、別紙物件目録(一)記載のペン型注射器及び別紙物件目録(二)記載のカートリッジ製剤を製造し、輸入し、販売し、又は販売の申出をしてはならない。

二  被告は、別紙物件目録(一)記載のペン型注射器及び別紙物件目録(二)記載のカートリッジ製剤を廃棄せよ。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

理由

第一  請求

主文同旨

第二  事案の概要等

一  事案の概要

本件は、注射液の調製方法及び注射装置についての特許権を有する原告が、別紙物件目録(一)記載の注射器(以下「被告注射器」という。)及びこれに装着する別紙物件目録(二)記載のカートリッジ(以下「被告カートリッジ」という。)の販売等をする被告に対し、被告注射器及び被告カートリッジは、両者を組み合わせて製造販売等する場合には注射装置について右特許権を直接侵害し、両者を個別に製造販売する場合には右特許権を間接侵害するとして、また、被告注射器及び被告カートリッジを使用して行う注射液の調製方法は、注射液の調製方法について右特許権を間接侵害するとして、被告注射器及び被告カートリッジの製造、販売等の差止めを請求している事案である。

二  前提的事実(当事者間に争いがないか、弁論の全趣旨により認められる。)

1  当事者

原告は、医療品や医療用具等の研究開発、製造販売を業とするスウェーデン法人である。

被告は、医療品や医療用具等の研究開発、製造販売等を業とする日本法人であり、イーライ リリー ネダーランド ビーヴィの子会社である。

2  原告の有する特許権

(一) 原告は、左記の特許権(以下「本件特許権」といい、その発明を「本件特許発明」という。)を有する。

発明の名称 注射液の調製方法及び注射装置

登録番号 第二一〇八六一一号

登録年月日 平成八年一一月二一日

出願年月日 昭和六三年七月一日(特願昭六三-一六二七四三号)

優先権主張日 昭和六二(一九八七)年七月二日

出願公告日 平成六年八月一七日(特公平六ー六一三六一号)

特許請求の範囲 別添特許公報(以下「本件公報」という。)該当欄記載のとおり

(二) 本訴においては、本件特許権の特許請求の範囲の請求項1及び5が問題となるところ、これらの構成要件を分説すると次のとおりである。

(1) 本件特許権の請求項1(以下「本件方法発明」という。)について

A<1> 敏感な薬剤を収納し且つ

前端部が注射針により貫通可能な膜によりシールされ且つ

後端部の境界が前側可動壁部材により規制された

前側スペースと、

<2> 水性相を収納し且つ

前端部の境界が前側可動壁部材により規制され且つ

後端部の境界が後側可動壁部材により規制された

後側スペースと、

<3> 後側スペースと前側スペースとの間のアンプルの壁体に形成された連絡通路とを備え、

<4> 前記後側可動壁部材が前方に移動されそして

それにより水性相及び前側可動壁部材を該前側可動壁部材が連絡通路と丁度対向する位置まで運び

それにより後側可動壁部材が前方に連続して移動するときに

水性相が前側可動壁部材を通って前側スペース内に流入して薬剤を溶解し、懸濁しまたは乳化するように構成された

<5> それ自体が既知である多室シリンダアンプルを使用して

<6> その後の一回またはそれ以上の注射を行うために

一種またはそれ以上の敏感な薬剤の水溶液、水エマルジョンまたは水懸濁液を調製する方法において、

B アンプルが前端部を上にしてほぼ垂直に保持された状態で、

後側可動壁部材がネジ機構によりアンプル内を前進して、

水性相を振盪または空気の混入を防止しつつ静かに下側から上側に流通させるようにしたことを特徴とする

C 薬剤の水溶液、水エマルジョンまたは水懸濁液を調製する方法。

(2) 本件特許権の請求項5(以下「本件装置発明」という。)について

ア<1> 注射液の成分が容器内に保持され、

該容器内において、注射液の成分が分離状態で保持されるとともに

外部からの作用により一緒に混合し且つ溶解させることが出来るように構成されるとともに、

<2> 前端部が貫通可能な膜によりシールされ、

<3> 貫通可能な膜と前側可動壁部材との間のスペース内に注射液の固形成分を収納し且つ

<4> 前側可動壁部材と後側可動壁部材との間に注射液の液体成分を収納し、

<5> 後側可動壁部材が液体及び前側可動壁部材とともに移動するときに前記液体成分が前記前側可動壁部材を越えて流通して前記固形成分と混合するための連絡通路を形成したパイプ状容器として構成された

<6> 劣化しやすい物質の注射液を調製する装置において、

イ<7> 注射液の成分を一緒にして混合することが出来るように内部に前記容器を固定することが出来、

<8> 相互にねじ込み可能な二つの管状部材で構成され、

<9> 該管状部材は、相互にねじ込まれた時に、前記容器の貫通可能な膜を備えた前端部が注射針で貫通可能に露出され、

<10> 且つ容器の後端部において、前記後側可動壁部材が後端部に配置されたピストンによって液体及び前側可動壁部材とともに前方に移動して液体成分を前記連絡通路を介して固形成分の収納スペースに流入して振盪や空気の混入を生じることなく固形成分と混合して溶液を調製するように容器を包囲する

<11> ホルダ手段を設けたことを特徴とする

ウ 劣化しやすい物質の注射液を調製する装置。

3  被告の行為

被告は、下請メーカーに製造させた被告注射器を販売し、また、被告カートリッジを製造、販売している。

なお、被告カートリッジは被告注射器に装着して用いるように設計された専用のカートリッジ製剤であり、使用に当たっては必ず被告注射器に装着し、これとともに使用するものである(以下、被告カートリッジを被告注射器に装着したものを「被告装置」という。)。

4  被告装置は、本件装置発明の構成要件ア及び構成要件ウを備えており、また、被告装置を用いた注射液の調製方法(以下「被告方法」という。)は、本件方法発明の構成要件A、構成要件Bのうち、「水性相を振盪又は空気の混入を防止しつつ静かに下方から上方に流通させるようにしたことを特徴とする」との構成及び構成要件Cを備えている。

第三  争点

一  被告装置は、本件装置発明の技術的範囲に属するか。

1  被告装置は、本件装置発明の構成要件イ<7>及び<8>「……内部に前記容器を固定することが出来、相互にねじ込み可能な管状部材」との構成を備えているか。

2  被告装置は、本件装置発明の構成要件イ<9>「該管状部材は、相互にねじ込まれた時に、前記容器の貫通可能な膜を備えた前端部が注射針で貫通可能に露出され」との構成を備えているか。

3  被告装置は、本件装置発明の構成要件イ<10>及び<11>「容器を包囲するホルダ手段」との構成を備えているか。

4  被告装置は、本件装置発明と均等か。

二  被告方法は本件方法発明の技術的範囲に属するといえるか。被告装置は本件方法発明の実施にのみ使用する物といえるか。

1  本件方法発明は、本件特許発明の請求項4ないし7に記載された装置発明の技術的範囲に属する装置を用いて行う方法に限定されるか。

2  被告装置は、本件方法発明の実施にのみ使用する物か。

3  被告装置を用いて行う注射液の調製方法は、本件方法発明と均等の範囲にあるか。

第四  当事者の主張

一  争点一1(被告装置は「……内部に前記容器を固定することが出来、相互にねじ込み可能な管状部材」との構成を備えているか)について

【原告の主張】

1 「内部に前記容器を固定する」(構成要件イ<7>)について

(一) 本件装置発明において、「内部に容器を固定する」のは、「注射液の成分を一緒にして混合することができるように」するためであり、「容器の後端部において、前記後側可動壁部材が後端部に配置されたピストンによって液体及び前側可動壁部材とともに前方に移動して液体成分を前記連絡通路を介して固型成分の収納スペースに流入して振盪や空気の混入を生ずることなく固型成分と混合して溶液を調製するように」するためであることが特許請求の範囲の記載から明らかである。

すなわち、二つの管状部材の一方が他方に入り込むように相対移動することにより、その管状部材の内部で管状部材の一方と一体をなして移動するピストンがアンプルの後側可動壁部材を前方に移動することで注射液の調製を行うから、(1)ピストンがアンプル内に挿入され、(2)挿入されたピストンにより後側可動壁部材が前方に移動させられるような位置にアンプルが動かないよう固定されていることが必要であるが、アンプルの露出部分が多いかどうかは問題とならない。

(二) 被告カートリッジのアンプル70は、被告注射器の移動部30(管状部材)内に設けられたアンプル挿入空間36b内に装着することにより固定できる。すなわち、被告カートリッジのアンプルは、その後端のプラスチックフランジ75により、被告注射器のフランジ挿入部38に装着されるが、装着した状態では、被告カートリッジのアンプル70は、一部を切り欠いた移動部30の外殻、すなわちアンプル保持部36で抱きかかえるように包囲され、かつ、後端の肩部、すなわちプラスチックフランジ75を押さえられているので、注射液調製に際し、本体部20に設けられた溶解プランジャー22がアンブル70内に挿入でき、また、右作業中でも動かないように固定されている。

被告は、アンプル挿入空間36bは「内部」に当たらないと主張するが、アンプル保持部36の内側であることは自明であり、そのアンプル保持部36は移動部30の内側にあること明らかである。しかも機能的に、ピストン(液解プランジャー22)とシリンダー(アンプル)の作用がネジ機構による二つの管状部材の相対移動で、その中で行われるという観点からも、その操作に必要な位置(管状部材の内部)にある。

本件公報に記載された実施例(1)と被告装置の違いは、実施例(1)ではアンプルの前端部が押さえられるようになっているのに対し、被告装置ではアンプルの後端部が把持されている点である。しかし、アンプルを固定するためにアンプルの前側を包囲して押さえるか、後側を包囲して把持するかは、当業者が適宜設計し得る事項である。

(三) したがって、アンプル70(容器に該当)が移動部(管状部材に該当)の「内部」に固定できることは明らかである。

2 「相互にねじ込み可能な二つの管状部材」(構成要件イ<8>)について

(一) 本件装置発明において、「管状部材」を「相互にねじ込」む構成を採用したのは、「注射液の成分を一緒にして混合することができるように」するためであることは、特許請求の範囲の記載自体から明らかである。したがって、「管状部材」を「相互にねじ込」むのは、管状部材をネジ機構によって相対移動し、ピストンが後側可動壁部材を前進させるようにすることに目的がある。そのためには、ピストンと後側可動壁部材が同軸にあることが必要であるが、ネジ機構がピストン及び後側可動壁部材と同軸に形成されている必要はない。また、ねじが管状部材の外周、内周の一部に刻まれている必要はなく、したがって、管状部材の断面が円である必要もない。

(二) 被告注射器の本体部20と移動部30は二つの管状部材に該当する。本体部20は、断面がたまご型の管状外殻を有するが、移動部30の内部に入った後端部ではアンプル70に挿入される(ピストン役をする)円筒状の溶解プランジャー22と案内ねじ軸26が平行して一体的に設置されている。移動部30は、内部に本体部20を収納する本体部収納部31を有し、本体部収納部31は断面がたまご型である筒状の構造を有している。移動部30に形成された操作ノブ34の雌ねじ34bが本体部20の案内ねじ軸26の雄ねじ26aと螺合することにより、操作ノブ34の回転に伴い相対移動する。これにより案内ねじ軸26と一体の本体部20が移動部30に入り込むように相対移動するが、本体部20と一体となっている溶解プランジャー22は、アンプル70の中に入り込んで移動する。すなわち、移動部30と本体部20という二つの管状部材(断面楕円)が、ネジ機構により本体部20が移動部30に入り込むように相対移動する。

被告装置と本件装置発明の実施例との相違は、実施例ではネジ機構とピストン・シリンダが同軸であるのに対し、被告装置ではピストン・シリンダの軸と平行な別軸に(いずれも管状部材に該当する本体部20及び移動部30の内部に)案内ねじ軸26及び雄ねじ26aと操作ノブ34及び雌ねじ34bが設けられているというにすぎない。しかし、前記のとおり、本件装置発明は、管状部材を相対的に移動させるネジ機構を、管状部材内にピストン・シリンダと別軸に設けることを排除するものではなく、二つの管状部材が相対移動する仕組みがネジ機構で操作され、それがピストン・シリンダの操作と連結するものであれば、その目的に合致し、技術的意味で「相互にねじ込み可能な二つの管状部材」に該当する。

3 被告は、被告装置は露出したままアンプル挿入空間36bに着脱自在である、管状部材を分離する必要がない、患者(児童)は薬剤の調製過程を十分視認できて安心であるなどと主張するが、これらは付加的な作用効果にすぎない。本件装置発明は容器の一部が露出していることを排除していないばかりか、溶解状態を視認しやすくするため、開口部を大きくとることは本件明細書にも記載されている単なる設計事項の一つであり、容器の露出の程度が大きいと本件装置発明の技術的範囲から外れるというものではない。

4 したがって、被告装置は本件装置発明の構成要件イ<7>及び<8>を充足する。

【被告の主張】

1(一) 本件公報の記載によれば、本件装置発明は、二つの管状部材の中に容器(シリンジ)が入れられ、いわば万年筆の中にインクカートリッジが入っているような、閉鎖された二つの管状部材の構成のものが開示され、発明の詳細な説明では、容器(シリンジ)は、管状部材に包囲され囲繞されている等の記載がある。したがって、本件装置発明は、二つの管状部材の中に容器(シリンジ)が入れられ、容器(シリンジ)は、管状部材に包囲され囲繞されている構成と解釈される。

このように、本件装置発明が、万年筆の中にインクカートリッジが入れられているように、相互にねじ込み可能な二つの管状部材の中に容器が入れられ、包囲されていることを意味するものであることは、本件公報の次の記載からも明らかである。

(1) 特許請求の範囲自体における「内部に前記容器を固定することが出来、相互にねじ込み可能な二つの管状部材」との記載(本件公報3欄41行ないし43行)

(2) 特許請求の範囲の他の部分における記載、すなわち「相互にねじ込まれた時に、前記容器の貫通可能な膜を備えた前端部が注射針で貫通可能に露出され」との記載(同3欄43行ないし45行)

右記載によれば、ねじ込み前は、膜は管状部材の開口部に露出していないのであるから、容器は管状部材に完全に包囲されていることを前提としている。

(3) 「前記ホルダー装置は、……容器を囲繞しており」との記載(同6欄14行ないし22行)

(4) 「二室シリンダアンプルを囲繞した前側ケーシング部分」(同7欄27行ないし28行)、万年筆型を示した第2図及び「前側ケーシング部分13には開口部19が形成されている」との記載(同7欄48行ないし49行)

(5) 本件公報に記載されている実施例のすべては、万年筆型ないし閉鎖された二つの管状部材のものであり、容器が露出しているものは全く記載がなく、示唆すらもされていないこと

(二) 本件装置発明は、装置の発明として出願されたものであり、その装置は明細書で具体的に構成が特定されているのであるから、本件装置発明の技術的範囲は、明細書で開示された範囲、すなわち、二つの管状部材の中に容器(シリンジ)が入れられ、容器(シリンジ)は、管状部材に包含され囲繞されている構成のものにとどまるべきことは当然である。本件装置発明は、「ネジ機構によりピストンを押し出し、容器内に挿入せしめ、後側可動壁部材を移動させることにより、調製を行う」という一般的原理や着想自体を保護するものではなく、あくまで明細書に具体的に開示された構成の装置を保護の対象としているのであるから、原告の主張のような拡張解釈は許されない。

2(一) 被告装置は、容器(シリンジ)の後端部の一部が把持部材に着脱自在に把持されるのみである。すなわち、被告装置のアンプル保持部36は「管状部材」ではなく、解放された構成である。そのため容器が取り付けられた後においても、アンプル保持部36の部分でさえ容器は半分以上露出し、さらに容器は右アンプル保持部の先端部から突出して露出している。したがって、被告装置には、二つの管状部材は存在しないし、容器(シリンジ)は、管状部材で包囲、囲繞されておらず、露出したままアンプル挿入空間36bに着脱自在である。また、被告装置では、移動部30にねじ込まれるのは、案内ねじ軸26であるから、管状部材が相互にねじ込まれることはない。

原告の主張するところは、要するに、被告装置のアンプル挿入空間36bがアンプル保持部の内側にあり、右アンプル保持部36は、移動部30の内側にあること、しかも、(アンプル保持部は)機能的にピストン(溶解プランジャー22)とシリンダー(アンプル)の作用がネジ機構による二つの管状部材の相対移動で、その中で行われているという観点からも、その操作に必要な位置(管状部材の内部)にあるということである。しかし、前述のように、被告装置はアンプル保持部36に包持されている部分でさえ、容器は約半分が露出し、しかも容器はアンプル保持部36の先端からさらに突出し、突出部においては全部露出しているのであるから、「内部に」容器を固定することができ、相互にねじ込み可能な「二つの管状部材」は被告装置には存在しないのである。

したがって、被告装置は、本件装置発明の「内側に前記容器を固定することが出来、相互にねじ込み可能な二つの管状部材で構成され」との構成を備えていない。

(二) 右構成の差異により、被告装置では、万年筆型のもののように容器(シリンジ)の入れ替えの都度、管状部材を分離する必要がなく、容器(シリンジ)はアンプル挿入空間36b着脱することが自在であって極めて便利であり、分離された管状部材を取り落とす危険もなく、また容器(シリンジ)はその大部分が露出しているので、患者(児童)は、薬剤の調製過程を十分に視認でき、安心である。

3 したがって、被告装置は、本件装置発明の構成要件イ<7>及び<8>を充足しない。

二  争点一2(被告装置は「該管状部材は、相互にねじ込まれた時に、……前端部が注射針で貫通可能に露出」する構成を備えているか)について

【原告の主張】

1 本件装置発明における「該管状部材は、相互にねじ込まれた時に、前記容器の貫通可能な膜を備えた前端部が注射針で貫通可能に露出され」との要件の技術的意味は、二つの管状部材が相対移動した時点、つまりアンプル内の注射液の調製が完了した時に、注射ができるようになっていることにある。右の要件はこの時点において注射針の貫通可能な膜が露出していることを要求するものであり、それ以前の時点において既に露出していても何ら差し支えがない。現に、本件公報で示されている実施例の図面である第6図と第7図、第9図と第10図は、それぞれネジ操作以前と以後でアンプルの先端と管状部材(前側ケーシング)の先端の位置関係、膜(フランジ2で囲まれた部分)の露出の状態は変わらないことを示しており、また、本件公報8欄8行ないし12行において、第4図において、「この図では、第1図に示した型式の二室シリンダアンプルが前側ケーシング部分13中に挿入されかつその膜3が注射針により貫通されるように暴露される程度まで移動していることは明らかである。」と説明していることからも、その前後を通じて膜が露出していても差し支えないことは明らかである。

なお、針が予め装着されているか、注射液調製後に針を装着するかは、いずれでもよく、本件公報では、その両方が可能であると説明されているが(本件公報9欄24行ないし35行参照)、これはねじ込みにより溶解作業を行う時点において「貫通可能に露出されていること」が必要であるが、貫通するのはその前でも後でもよいという趣旨に他ならない。

2 被告注射器の操作ノブ34を回転することにより、移動部30が本体部20側へ移動された時点において、被告カートリッジのゴム製の膜79を備えた針取り付け部76が注射針で貫通可能な状態にあるので、右要件を充足している。

3 したがって、被告装置は本件装置発明の構成要件イ<9>を充足する。

【被告の主張】

1 本件装置発明における「該管状部材は、相互にねじ込まれた時に、前記容器の貫通可能な膜を備えた前端部が注射針で貫通可能に露出され」との構成は、二つの管状部材がねじ込まれた時において、容器の貫通可能な膜(本件公報第1図3)が、前側管状部材の開口部(本件公報第1図5)に露出するという意味である(本件公報8欄8行ないし12行)。そして、その時点で注射針を取り付けるものであることは、特許請求の範囲自体の記載、本件公報8欄21行ないし27行の記載や、「すべての液体11が前側スペース6内に押し込まれたときに、……注射液が得られる。その後、針17が取り付けられたホルダー18が前側ケーシング部分13にねじ込まれ、シリンダアンプルの膜3が針の後側先端部21により貫通され……」(本件公報9欄3行ないし9行)との記載から明らかである。

なお、本件公報第6図、第9図では、ねじ込みは既に行われているから、右各図に基づく原告の主張は理由がない。

2 被告装置は、容器が全部露出していることから、ねじ込みの有無に関係なく、ゴム製の膜79は常に露出しており、操作ノブ34の回動に先立って針を取り付けることが可能である。

したがって、被告装置は、本件装置発明の「該管状部材は、相互にねじ込まれた時に、前記容器の貫通可能な膜を備えた前端部が注射針で貫通可能に露出され」との構成を備えていない。

3 また、本件装置発明の場合には、ねじ込みをしてから注射針を取り付ける構成なので、注射針の取り付け時点が制約される結果、溶解時に容器にかかる圧力が外部に解放されないため、容器に好ましくない圧力がかかるのに対して、被告装置の場合には、容器は露出しているので、操作ノブの回動に先立って注射針を取り付けることができ、溶解時の圧力を放出できるという作用効果上の相違がある。

4 よって、被告装置は、本件装置発明の構成要件イ<9>を充足しない。

三  争点一3(被告装置は「……容器を包囲するホルダ手段」を備えているか)について

【原告の主張】

1 本件装置発明にいう、「容器の後端部において、前記後側可動壁部材が後端部に配置されたピストンによって液体及び前側可動壁部材とともに前方に移動して液体成分を前記連絡通路を介して固形成分の収納スペースに流入して振盪や空気の混入を生じることなく固形成分と混合して溶液を調製するように容器を包囲するホルダ手段を設けた」との要件は、容器内で注射液を調製する機構と、その調製操作を可能にするための容器を管状部材に設けたホルダーで保持しておくことを要件としたことが示されているものである。

前記のとおり、容器を管状部材に設けられたホルダー手段で包囲することの技術的意味は、本件装置発明の二つの管状部材をネジ機構でその一方が他方に入り込むように相対移動するピストン・シリンダーの動作で注射液の調製を行うものであるところ、そのシリンダーに相当する容器が管状部材の囲いの外にあっては機能しないということにある。したがって、その囲いの一部が切り欠いてあっても、一部容器が外部から見えても、「調製するように……保持する」こと、すなわち、ピストン・シリンダー操作のとき、シリンダー(容器)が操作に必要な位置(管状部材の内側)に動かないように保持するという作用には何ら差し支えがない。

2 被告カートリッジを被告注射器に装着したとき、被告装置のアンプルは、移動部30(管状部材に該当)の外殻で一部切り欠き部分を除き包囲されて形成されるアンプル保持部36の内部に保持されているから、アンプル70(容器に該当)は移動部30(管状部材に該当)に設けられたアンプル保持部36(ホルダー手段に該当)に包囲されている。

3 したがって、被告装置は、本件装置発明の構成要件イ<10>及び<11>を充足する。

【被告の主張】

1 本件装置発明にいう、「ホルダ手段」とは、前記一【被告の主張】で指摘した本件公報の各記載よりすれば、容器の全部又は相当部分を包囲、囲繞するものであることは疑問の余地がない。

2 前記一【被告の主張】で述べたとおり、被告装置は、アンプル保持部34の部分においてさえ、容器の約半分は露出し、突出部においては、容器は完全に露出しているのであって、この突出部に関しては、容器は部分的にさえアンプル保持部34と接触していないのであるから、容器が「包囲」又は「囲繞」されているとは到底いえない。

原告は、囲いの一部が切り欠いてあってもシリンダー(容器)が操作に必要な位置(管状部材の内部)に保持されるという点で、被告装置は、「容器を包囲するホルダ手段」を備えているとの趣旨の主張をしている。しかし、本件装置発明は、「ネジ機構によりピストンを押し出し、容器内に挿入せしめ、後側可動壁部材移動させることにより、調製を行う」という一般的原理を保護するものではなく、あくまで、明細書で具体的に開示された構成の装置を保護の対象としているのであるから、「容器を包囲するホルダ手段」の意義も明細書の記載に即した具体的な装置の一部として理解されなければならず、原告の右のような拡張解釈は失当である。

したがって、被告装置は、本件装置発明にいう「容器を包囲するホルダ手段を設けたことを特徴とする」との構成を備えていない。

3 また、前記一【被告の主張】と同様の理由により、被告装置は右構成の相違によって、使用者が容器を取り付けるに際しての利便性及び薬剤を調製するに際しての利便性の点で、本件装置発明と作用効果を異にしている。

4 したがって、被告装置は、本件装置発明の構成要件イ<10>及び<11>を充足しない。

四  争点一4(被告装置は、本件装置発明と均等の範囲にあるか)について

【原告の主張】

1 本件装置発明の実施例と被告装置の相違点は、

(一) 実施例では容器の前側肩部が押さえられるようになっているのに対し、被告装置ではアンプルの後端部が把持されていること

(二) 実施例ではネジが管状部材の外周又は内周の一部に刻まれ、ピストンと同軸に設けられているのに対し、被告装置ではプランジャー(ピストン)とこれを駆動するネジ機構を別軸に設けていること、

にある。

2(一) 本質的部分について

本件装置発明の本質(特徴的構成)は、劣化しやすい物質の注射液の液体成分と固型成分の混合をするために、容器の後側可動壁部材をネジ操作によりゆっくり動かすことのできる構成を備えた装置であるということである。右構成により、本件装置発明は、劣化しやすい物質の注射液を容易に調製することができるという作用効果を奏する。この構成を有し、作用効果を奏する公知技術は存在しなかったのであるから、本件特許発明の本質はまさにこの点にある。

被告装置も右本質的構成及びこれに基づく作用効果を奏するものであって、仮に本件装置発明の構成との間に相違点があるとしても、その点は本件装置発明の本質的部分ではない。

すなわち、本件装置発明の実施例と被告装置の相違点は、以下のとおり当業者が適宜設計変更しうる範囲の相違にすぎず、本件装置発明の本質的部分ということはできない。

(二) 置換可能性

本件装置発明について、被告装置のように置換しても、後側可動壁部材をネジ操作によりゆっくり動かすことは可能であって、本件装置発明と同一の作用効果を奏するので、置換可能性が認められる。

(三) 置換容易性

右のように置換することは、遅くとも被告装置の製造の時点において、本件公報を見た当業者が容易に行えるものであった。

(1) 一つの発明の異なる実施態様として、アンプルを万年筆型ケーシングに囲繞する例が知られており、また、アンプルの前側肩部をケーシングが抑えるのではなく、アンプルに突起(フランジ)を設けてケーシングの溝に嵌まり込むようにする固定方法が知られていた。

(2) さらに、プランジャー(ピストン)とこれを駆動するためのネジ機構を別軸に設ける態様も周知であった。

右のような周知技術を参照して、本件特許明細書中に具体的に開示された装置のネジ機構に関する部分を被告装置のように置換することは、遅くとも被告装置の製造の時点において、本件特許発明を知った当業者にとっては容易であったことは明白である。

(四) 公知技術からの推考容易性

被告装置は、本件特許発明の開示を待って初めて製造し得るようになったもので、少なくとも、本件特許発明の出願時(優先権主張日)における公知技術と同一又は当業者がこれから容易に想到できたものではない。

(五) 意識的除外事由

被告装置が、本件特許の出願手続において、特許請求の範囲から意識的に除外されたとの特段の事情はない。

【被告の主張】

1 相違点

被告装置においては、ネジ機構は操作ノブ34の雌ねじ34bと本体部20の案内ネジ軸26の雄ねじ26aが螺合して操作ノブ34の回転によってピストンを前進させて後側可動壁部材を前進させるから、操作ノブ34の回転でピストン前進が可能であるという点で、また「相互にねじ込む」ものでない点で、ネジ機構の具体的構成が本件装置発明とは相違している。そのため、被告装置では、患者がピストンを前進させる際にはノブを回せばよく、本件特許発明のように万年筆状に容器全体を回転させる必要はないから、患者にとって作業は容易であり安定的に作業を行い得る。

被告装置は、本件装置発明のように二室シリンダアンプルを閉鎖された管状部材の中に収容する構成とせず、アンプルは露出したままアンプル挿入空間に把持させるから、患者は薬剤の調製・溶解状態が手に取るように見ることができ、安心して調製できるし、またアンプルが露出しているので、最初から注射針を装填でき、過圧を防止できる。さらに、被告装置ではアンプルを着脱するのに、万年筆型の軸にいちいちねじ戻しをしなくてもワンタッチで着脱自在である。そのため患者はごく簡単にアンプルを着脱することができ、また分離した容器を取り落とす危険もない。

2 被告装置は、次のとおり均等の成立要件を欠く。

(一) 本質的部分の置換

ネジ機構がいかなる構成であるか、二室シリンダアンプルが把持される部材が閉鎖的な管状部材であるか、あるいは解放されている構成であるか、アンプルがワンタッチで着脱自在であるかどうか、アンプルの大部分が露出し患者が薬剤の調製過程・逆血の有無・薬液残量を逐一確認できる構成とされているかどうかという各点は、患者が自己使用する薬剤調製装置・注射装置において本質的部分であるから、本質的部分について相違する被告装置については均等は成立しない。

なお、本件装置発明が調整装置兼注射装置としての利便性を得るということをも目的としていることは、本件公報5欄19行以下において、「従来知られているものと同様に容易に持ち運びしかつ取り扱われかつ敏感な物質の注射用の混合容器の利点も同様に得られる注射装置を入手可能にすることが非常に望ましい。この目的は本発明により達成することができる。」と記載されていることからも明らかであって、前記の各相違点が意味のある重要な相違点であることはいうまでもない。

(二) 置換可能性の欠如

右のように、被告装置は、患者が自己使用する薬剤調製装置・注射装置として、本件特許発明とは異なる構成を有し、それ故に作用効果も相違するから、置換可能性はない。

(三) 置換容易性の欠如

被告装置と近似した技術が特許権として登録されているところ、本件特許発明から容易推考であったのであれば、進歩性を欠くものとして登録は拒絶されたはずであるにもかかわらず、右出願は拒絶されずに登録されたのであるから、被告装置が本件特許発明から容易推考であったものではなく、置換容易性がない。

五  争点二1(本件方法発明は、本件特許発明の請求項4ないし7に記載された装置発明の技術的範囲に属する装置を用いて行う方法に限定されるか)について

【原告の主張】

1 前記一ないし四における【原告の主張】のとおり、被告装置は、本件特許発明の請求項5の技術的範囲に属するから、本争点は、被告方法が本件方法発明の技術的範囲に属するかの判断において意味がない。

2 本件特許発明の請求項1の文言中には、「ネジ機構」の実施態様を格別請求項4ないし7のいずれかの装置に用いられているものに限定する趣旨の記載はない。もとより、特許発明は発明の詳細な説明に記載したものであることが必要であるが、これは、当業者が当該発明を実施することができる程度に記載してあればよいのであって、明細書中に具体的に例示されていなくても、周知技術や公知技術等、当業者の技術常識を参酌することにより当業者が実施することが可能な発明であれば、発明の詳細な説明に実質的に記載された発明ということができる。例えば、本件特許権の優先権主張日より前に公開された特公平五-六七三〇八号公報には、アンプルが万年筆型のケーシングに囲繞された装置とアンプルが露出している装置が共に同じ上位概念の発明の実施態様として記載されているし、被告装置のようにプランジャー(ピストン)とこれを駆動するためのネジ機構を別軸に設ける態様は当業者には周知である。

したがって、被告装置のごとき実施例が本件特許権の明細書中に明示されていないとしても、具体的に明示された装置のネジ機構に関する部品を周知技術を参酌して適宜置換することにより、当業者は容易にこれを実施し得たといい得るものであるから、被告装置のごとき実施態様をことさら排除していると解する理由はない。

3 「ネジ機構」なる用語を用いた本件方法発明は、いわゆる、抽象的クレーム・機能的クレームには該当しない。

抽象的クレーム・機能的クレームとは、発明の目的又は効果を達成するのに必要な構成を示さずに、発明を抽象的に記載した特許請求の範囲をいう。すなわち、ある装置を、それが「何であるか」ではなく「何をするものなのか」によって定義するものである。本件方法発明の「ネジ機構」は、「何であるか」という観点での定義を置いているのであるから、これを抽象的クレーム・機能的クレームということはできない。

また、仮に右構成が抽象的クレーム・機能的クレームであるとしても、当業者の技術常識によって適宜置換することのできる範囲(均等物)は、技術的範囲に含まれる。前記のとおり、被告装置は本件装置発明の均等物であるから、これを使用して行う被告方法は、本件方法発明の技術的範囲に属する。

【被告の主張】

1 本件方法発明における「ネジ機構」の意義について

(一) 発明は、目的、構成、作用及び効果によって特定されるものであり、特に発明の構成は中核的部分であるから、明細書において構成が具体的に開示されていなければならない。

本件特許発明は、請求項1ないし3に記載された薬剤の調製方法に係る発明と、請求項4ないし7に記載された薬剤を調製しかつ注射する装置に係る発明とからなっている。そして、本件方法発明(請求項1)については、「後側可動壁部材が、ネジ機構によりアンプル内を前進して」と記載されており、右「ネジ機構」の記載に対応する具体的構成として明細書及び図面で開示されているのは、請求項4ないし7の装置である。また、本件公報の詳細な説明において、「本発明は本発明の方法を実施する装置を包含している」(本件公報5欄48ないし49行)と記載されているのみならず、実施例を説明する箇所においても、終始一貫して本件特許発明の装置を使用して本件方法発明を実施する趣旨が説明されている。ゆえに、本件方法発明における「ネジ機構」とは、請求項4以下の装置を意味すると解釈するのが当然である。

原告が主張するように、公知又は周知のネジ機構をも含むと解釈すると、本件方法発明の具体的な構成が明細書で明らかにされておらず、その構成によりどのような作用を生じ、いかなる効果が得られるかが明示されていないにもかかわらず、公知又は周知のネジ機構に置き換えた注射(調製)方法も技術的範囲に包含することになり、本件方法発明の範囲は、発明者が発明、開示した限度を超える極めて広範囲なものとなってしまう。原告は、請求項4ないし7の装置発明を出願し、この装置発明を用いて行う注射(調製)方法を本件方法発明として出願したのであるから、それを超えて本件方法発明の保護範囲を拡張する解釈をすることは許されない。

したがって、請求項4以下の装置を使用しないで注射液を調製した場合には、本件方法発明の特許権侵害は成立しない。

(二) 本件方法発明にいう「ネジ機構」の具体的構成は特許請求の範囲では明らかにされておらず、「ネジ機構により」とは「ネジ機構を持つ手段により」というのと同程度に抽象的であるから、いわゆる抽象的クレーム・機能的クレームである。このような抽象的クレーム・機能的クレームの解釈については、元来そこに開示されていない技術思想を排除するためにも、図面及び明細書全体の記載を参照して、権利範囲を合理的に確定しなけれげならない。本件方法発明の「ネジ機構」について開示されているのは請求項4ないし7の装置のみであって、それ以外の「ネジ機構」は何ら開示、示唆されていないから、本件方法発明における「ネジ機構」は請求項4ないし7の装置であると理解すべきである。

(三) 公知技術との関連から「ネジ機構」の意義についてみると、本件特許発明の出願時において、多室シリンダアンプルを使用して調製する方法は公知であり、成長ホルモンのような敏感な薬剤は生化学的変化を防止するためにゆっくりと調製作業を行うべきものであることも周知であリ、また、ネジ機構によリピストンロッドを押してシリンジ内をゆっくりと移動させる構成も公知であった。本件特許発明は、このような各公知技術を組み合わせて、公知の多室シリンダアンプルにネジ機構を結合し、このネジ機構の具体的構成として万年筆状の二つの管状部材を相互にねじ込む構成としたものである。このように公知技術を組み合わせ、ネジ機構を具体化したものが本件特許発明であるから、本件方法発明の「ネジ機構」を拡張解釈して公知技術に属するネジ機構までも包含する解釈を行うべきではない。

2 被告方法は被告装置を用いて行うものであるが、前記のとおり、被告装置は本件特許発明にかかる装置に該当せず、また、本件特許発明に係る装置とは作用効果が相違し、公知技術から容易に想到可能ではなく、置換可能性、容易性がないから、方法の発明の「ネジ機構により」には該当せず、本件方法発明の構成要件を充足しない。

六  争点二2(被告装置は、本件方法発明の実施にのみ使用する物ということができるか)について

【原告の主張】

1 被告方法は、別紙方法目録記載のとおりであり、被告装置、そしてその構成部分である被告注射器及び被告カートリッジは、社会通念上、当該方法以外には用途がなく、当該方法にのみ使用するものである。

2(一) 特許法一〇一条二号にいう「その発明の実施にのみ使用する物」とは、特許方法とは独立した実用性ある他の用途をもたない物ということであって、同じ物で同じ目的で、若干ルーズな態様でも使えるということは、ここにいう他の用途には当たらない。すなわち、「他の用途」とは、特許方法とは独立した実用的用途であることが必要である。

(二) 被告は、被告装置は「水平に近い状態に保持」して注射液を調製すると主張するが、このような調製方法は実用的ではない。

被告装置は、連絡通路(バイパス78)を有する二槽式のアンプル70と、ピストンを押し込むためのネジ機構を採用しているが、これはネジ機構によるピストンの移動に応じた分量だけ水性の溶解液を第二槽から第一槽にゆっくり移動させる目的のものである。この際、水性の溶解液は、アンプル70の壁に設けられたバイパス78を通って下から上に移動するから、被告装置は、アンプル70が上向きになるよう、できるだけ垂直に近く保持されるのが目的に合致している。このような場合にあえてアンプルを水平に近い斜めに保持したのでは、ネジ機構を採用したことによる利点が減殺されてしまう。

被告カートリッジは、ソマトロピンの含量と溶解液の量を一定のものにすることにより注射液のソマトロピン濃度を規定しており、注射量の設定は予定された濃度の注射液が得られることを前提に行われるものである。したがって、溶解作業が完了するまでに薬液が漏れれば、注射量に狂いが生じ、副作用の発現頻度が増えたり、ソマトロピンの効果が十分に発揮されなくなったりすることも考えられる。また、薬液を漏らすようなことになれば、高価な薬剤を無駄にしてしまうことになる。

被告装置による薬剤の溶解作業は、医師などの医療従事者よりもむしろ患者やその家族が自ら行うことが予定されており、患者やその家族はこの種の器具の取り扱いに格別熟練した者ではないから、これらの者が水平に近い状態で溶解作業を行えば、溶解作業中又はその後の空気を取り除く作業中に誤って針先を下に向けてしまい、薬剤をこぼすなどして、注射液の正しい調製に失敗するおそれが大きい。また、調製作業が進み、溶解液の多くが第一槽71に流入した段階では、水平よりわずかばかり上向きにしている場合でも、ピストンが動いている限り、薬液がこぼれる現実的な危険性がある。

被告装置を用いて行う溶解作業の前に行われる注射針取り付け作業、溶解作業の後に行われる空気を抜く作業は、いずれもアンプル70を上向きにして垂直に近い状態に保持して行うのであって、ほぼ垂直に保持したまま溶解作業を行うことが苦痛を伴うものであるということはできず、むしろ、水平に近い斜めに倒して溶解作業を行う方が、患者にとっては苦痛である。

被告は、被告カートリッジは容器先端部に固形薬剤が固着されており、被告装置を垂直に保持したのでは溶液が先端部の固形薬剤に到達するのに時間を要するから水平に近い状態にして注射液を調製すると主張する。しかし、被告カートリッジ内の固形薬剤はシリンジの前端部に強固に固着せしめられているわけではなく、大部分が球形のケーキ状になっていて、被告カートリッジの第一槽71中を前後に移動し得るのであり、また、一部は粉末状で第一槽71内のアンプルの壁面に付着している。溶解作業中は針先が上向きとなるので、ケーキはちょうど第一ゴムガスケット72の上に乗った状態になるのであって、被告カートリッジの容器先端部に固型薬剤が固着されているとする被告の前提が誤っている。

また、被告装置の取扱説明書には、「針先を水平からやや上向きに保持し」との記載があるが、このような方法では注射液の調製を正しく行えない可能性が高いことは前述のとおりであるのみならず、そもそも被告装置の取扱説明書に右のように記載されているのは、原告から本件特許権を侵害するという警告を受けたためであって、もともと被告は、被告注射器及び被告カートリッジの治験(臨床試験)に際しては、注射液の調製は、針先を上に向け、装置を垂直に近い状態に保持して行うよう治験担当医師や患者とその家族に指示していたのである。我が国の特許法では、米国特許法上のいわゆる「インデュースメント」(誘引)の法理は採用されていないのであるから、取扱説明書の記載、医師を通じた指示、その他の方法による使用者への指図内容によって直ちに侵害の成否が左右されるわけではない。間接侵害の成否は、被告装置の設計目的に従った本来の用途を客観的に確定することによって決定されるべきである。

(三) したがって、溶解作業が正しく行われるよう、確実に針先を上向きに保持させるためには、被告装置を「水平に近い状態」ではなく、「ほぼ垂直」すなわち垂直に近い状態に保持させることが、むしろ自然であり、そのような方法こそが医薬品の安全管理、薬効の発揮、そして経済的見地から見て合理的な方法であり、社会通念上実用的な方法である。これに対し、被告装置を水平に近い状態に保持することは、薬液が漏れる危険があり、安全性、有効性の面からも、経済的側面からも不都合で、構造それ自体の設計目的に合致しないルーズな態様での変則的用法であるというべきであって、社会通念上実用的な用途とはいえない。

このように、本来「アンプルが前端部を上にしてほぼ垂直に保持された状態」で用いるべき被告装置について、「針先を水平からやや上向きに保持」するという変則的な使用方法を推奨すれば、それがいわゆる「他の用途」になるなどという見解は、特許法一〇一条の立法趣旨に反するものであり、到底容認できない。

(四) なお、被告は、出願人が審査官からの拒絶理由通知に対応するために特許請求の範囲を縮減したことを云々するが、仮に被告が包袋禁反言に類する主張をしているのだとしてみても、「ほぼ垂直に保持された状態で」との点は先行技術に基づく拒絶を回避するために加えられた要件ではないから、右法理の適用されるべき場合ではない。

3 したがって、被告装置は、本件方法発明の技術的範囲に属する方法にのみ使用されるものである。

【被告の主張】

1 被告装置の使用方法は、操作ノブ34を回転させるときに、針先を水平からやや上向きに保持するものである。

2 本件方法発明においては、「アンプルが前端部を上にしてほぼ垂直に保持された状態で」と一義的に記載されているから、本件方法発明の技術的範囲は垂直で保持された状態で行う方法に限られ、斜めに保持された状態で行われる方法には及ばない。この要件は、出願経過において原告が補正により付加したものであるから、出願人(原告)の意思は、「垂直に保持された状態で行う方法」につき保護を求めることにあったことは明らかである。特に、間接侵害の規定は、「にのみ」を要件に特許権の効力の拡張を例外的に図ったものであるから、間接侵害の規定の解釈にあたっては、制限的解釈を行うべきであり、間接侵害に名を借りて特許発明の保護の範囲が拡大されてはならない。

3 被告装置は、斯界の権威者である専門医の指導の下に、多くの患者が実際に斜めに保持された状態で用いているのであるから、被告装置は実用性のある「他の用途」、すなわち垂直に保持する方法以外の方法に現実に用いられているものである。被告装置によるヒト成長ホルモンの投与を指導する医師は、被告装置の使用説明書に従い、患者が被告装置を実際に使用する際には被告装置の説明書のとおり、「斜めに保持して調製する」ように指導している。医師の間に、垂直に保持して調製することが一般的であるというような認識は全くなく、また斜めに保持して行うことにより不都合を生じるということも何ら報告されていない。かえって、調製作業において、注射器を終始、垂直に又は八〇度程度に保つことは、患者にとっては苦痛であり、多くの患者にとっては四五度程度又はそれ以下に注射器を傾ける方が楽に作業をなし得るから、自然な動作として、患者は後者を選択するのである。

原告は、被告装置の構造から、垂直に保持して調製する方法が本来の用途であると主張するが、溶解液を下から上にゆっくり移動させるのに、「ほぼ垂直に保持された状態で」調製を行わなければならないものではなく、二室シリンダアンプルの第二槽から第一槽に溶液を移動させれば溶解の目的を達し得るから、垂直に保持しなければならないものではない。特に、被告カートリッジは、アンプル内の固形剤は薬剤収納室の前端に固着しているので、液を固形剤に接触させて溶解作業を行うためには、アンプルを傾けなければならない必然性がある。

なお、原告は、被告が治験段階に使用していた文書をもとに主張しているが、肝心な点は、現実に被告装置がどのように使用されているかということであって、治験段階の方法はあくまで試験研究段階のもので発売後は推奨されていないし、実地臨床の現場では被告の推奨する、斜めに保持して調製する方法が採用されているのであるから、原告の主張は意味がない。

よって、被告装置は、本件方法発明の「垂直に保持して」という方法以外の用途である「斜めに保持して」という用途に使用されており、かつ「斜めに保持して」という用途は、実際に患者によって何の問題もなく使用されているものであるから、被告装置は本件方法発明の実施にのみ使用されるものではない。

4 原告は、「斜めに保持された状態で行う注射方法」は、ルーズな使用方法又は変則的な使用方法であり、「他の用途」には当たらないと主張する。しかし、斯界の権威者である医師の指導の下に、多くの患者が、実際に「斜めに保持された状態で」注射(調製)を行っており、何ら問題もなく実施されているのであるから、この方法がルーズないし変則的であるという原告の主張は失当である。

また、原告は、他の用途というためには独立した用途であることを要すると主張するが、そもそも特許法一〇一条二号は、「その発明の実施にのみ使用する物を生産し、譲渡……」することを侵害とみなす旨規定しており、「他の用途がある」という表現は、右条文を裏返して表現したものであるから、「その発明の実施にのみ使用する物」といえない場合には「他の用途がある」ということになる。したがって、「当該他の用途が独立性があるかどうか」等の思考方法を採ることは妥当ではない。そもそも、原告が何をもって「独立した用途」というのか不明確であるが、通常は、当該発明と同一の技術分野における用途に関して「他の用途」に該当するか否かが問題となることが多いであろうから、別個の技術分野に属する用途でなければ他の用途といえないとの趣旨であるとすれば、明らかに特許法一〇一条二号に反する解釈であり、独自の見解というべきである。

5 よって、被告装置は本件方法発明の実施にのみ使用する物ではないから、間接侵害は成立しない。

七  争点二3(被告装置を用いて行う注射液の調製方法は、本件方法発明と均等の範囲にあるか)について

【原告の主張】

1 本質的部分

本件特許発明は、注射液の液体成分と固型成分を混合するために容器(アンプル)の後側可動壁部材をネジ操作によりゆっくり動かす、という技術思想に基づく発明である。本件特許発明により、敏感な薬剤(劣化しやすい物質)であるヒト成長ホルモンの注射液の調製が格段に簡単になり、患者自身又はその家族が容易にこれを行うことができるようになった。容器(多室シリンダアンプル)やネジ機構については公知技術が存在したが、注射液の液体成分と固型成分を混合するために容器(アンプル)の後側可動壁部材をネジ操作によりゆっくり動かすという本件特許発明の着想を示唆するものはなかった。

被告装置を用いた注射液の調製方法は、敏感な薬剤(ソマトロピン(ヒト成長ホルモン)の凍結乾燥製剤)と水性相(溶解液)の混合に当たり後側可動壁部材(第二ゴムガスケット74)をネジ操作によりゆっくり動かすという本質的部分において、本件方法発明と異なるところはない。換言すると、「ほぼ垂直に保持」の要件は、本件方法発明の本質的要素ではない。

2 置換可能性

被告は、「ほぼ垂直に保持」せず、水平に近い斜めに保持しても、溶解液を下から上にゆっくり移動させるのに支障はないと主張しており、これによれば、「ほぼ垂直」を「水平に近い斜め」に置換しても、同一の作用効果を奏するから、置換可能性が認められる。

3 置換容易性

ひとたび、本件方法発明の教示がなされれば、これを回避する目的で装置を保持する向きを「ほぼ垂直」から「水平に近い斜め」に変更することは、極めて容易であるから、置換容易性が認められる。

4 公知技術

被告装置を水平に近い斜めに保持する方法は、本件特許発明の方法を待たない限り、公知技術から容易に想到できるものではない。

5 意識的除外

本件特許発明の出願経緯において、「水平に近い斜めに保持」する場合を意識的に除外したと解すべき事情は認められない。なぜなら、「ほぼ垂直」の点は、審査官が引用した公知例及び先願明細書に基づく拒絶を回避するために、意識的に挿入された要件ではなく、単にネジ機構の使用方法としての適正な用法を記載にしたにすぎないからである。

【被告の主張】

1 本質的部分の欠如

二室シリンダアンプルを使用して薬剤の調製を行う方法において、容器をどのように保持するかは非本質的な部分とはいえない。原告は、従来から垂直に保持することが本来の用法であり、斜めに保持する方法は本来の用法ではないと主張してきたものであり、垂直に保持して調製することが非本質的部分であると主張することは従来の原告の主張と矛盾しており、到底認められない。

2 間接侵害

間接侵害は特許権の効力を強化するため、直接侵害が成立しない場合であっても、特許法の規定により特別に侵害とみなすものとして認められている制度であり、これをみだりに拡張的に解釈すべきものではない。間接侵害は特許発明の実施にのみ使用される物について成立するものであるから、被告装置が本件方法発明の実施にのみ使用される物と認められる場合に限って、間接侵害が成立する。

本件方法発明と均等と主張する方法についてまで間接侵害が成立するとすることは、間接侵害の趣旨に反するものであって、この点からも原告の本件方法発明に関する均等の主張は認められない。

第五  当裁判所の判断

一  被告装置の本件特許発明の構成要件該当性について

1  争点一1(被告装置は、「……内部に容器を固定することが出来、相互にねじ込み可能な二つの管状部材」を備えているか)について

(一) 本件装置発明の構成要件イは、「注射液の成分を一緒にして混合することが出来るように内部に前記容器を固定することが出来、相互にねじ込み可能な二つの管状部材で構成され、該管状部材は、相互にねじ込まれた時に、前記容器の貫通可能な膜を備えた前端部が注射針で貫通可能に露出され、且つ容器の後端部において、前記後側可動壁部材が後端部に配置されたピストンによって液体及び前側可動壁部材とともに前方に移動して液体成分を前記連絡通路を介して固型成分の収納スペースに流入して振盪や空気の混入を生じることなく固型成分と混合して溶液を調製するように容器を包囲するホルダ手段を設けたことを特徴とする」というものである。

(二) 右の構成要件において、「注射液の成分を一緒にして混合することが出来るように内部に前記容器を固定することが出来」、「相互にねじ込み可能な」及び「二つの」との構成は、いずれも「管状部材」の構成を特定するものであることは明らかであり、そうすると、本件装置発明における管状部材は、右のような構成をすべて備える必要があるものということができる。

そして、右のような表現、すなわち、管状部材が、内部に容器を固定することができるものであり、かつ、相互にねじ込み可能な二つの部材であるとの構成の開示を見た当業者は、当該管状部材は、内部が空洞であって、その空洞部分に容器を収納することが可能であり、容器を収納した状態でそれぞれの管状部材の外周又は内周に切り込まれた雄ねじと雌ねじを螺合することにより容器を固定する構成のものであると理解するのが通常であると考えられる。

また、《証拠略》によれば、本件公報の発明の詳細な説明欄には、本件発明の目的は、容易に持ち運びし、かつ、取り扱われ、かつ、敏感な物質の注射用の混合容器の利点も同様に得られる注射装置を入手可能にすることであること(5欄19行ないし22行)、本件特許発明は劣化しやすい一つ又はそれ以上の物質の注射液を調整し、かつ、その後この注射溶液を注射する方法及び装置を提供するものであること(5欄25行ないし27行)、本件特許発明における装置は、注射液の成分を一緒に混合するように内部に固定することができるホルダー装置を備え、右ホルダー装置は一緒にねじ込むことができる二個の管状部材により構成されていること(6欄13行ないし16行)、実施例として、二つの円筒状の部材の一方の外周に雄ねじを、他方の内周に雌ねじを切り込んで、それらを螺合することによって、両部材を相対移動する構成の装置が開示されていること(8欄18行ないし20行、第3図ないし第11図)、その余の構成を有する管状部材についての記載はないことが認められる。

右の諸点に加え、本件特許発明が、請求項1ないし3で方法の発明を記載し(請求項2及び3は請求項1を引用する形式の請求項である。)、ここでは後側可動壁部材を前進させるための構成としては「ネジ機構」と記載しているのに対し、方法の発明を実施するための装置として請求項4ないし7で装置の発明を記載し、右構成を「内部に容器を固定することが出来、相互にねじ込み可能な二つの管状部材」と、より構成を具体化して記載していること、本件特許発明における注射装置は、敏感な物質の注射液の混合容器を提供することのみならず、当該装置が持ち運び、取り扱いが容易であることをも目的としていることなどに照らせば、請求項4ないし7に係る発明は、請求項1ないし3の注射液を調整する方法を実施するための装置を具体化したものを装置の発明としたものであると解するのが相当である。そして、本件公報から看取できる「内部に容器を固定することが出来、相互にねじ込み可能な二つの管状部材」の構成は、前記のとおり、当該表現から通常に解釈し得る、内部が空洞であって、その空洞部分に容器を収納することが可能であり、容器を収納した状態でそれぞれの管状部材の外周又は内周に切り込まれた雄ねじと雌ねじを螺合することにより容器を固定する、いわゆる万年筆型の構成のもののみであって、それ以外の構成のものは開示されていないのであるから、本件装置発明にいう右構成もこのような構成を有するものと解釈すべきである。

(三) 被告装置のネジ機構は、本体部20及び溶解プランジャー22と一体的に構成された、溶解プランジャー22とは別軸である案内ネジ軸26に切り込まれた雄ねじ26aと、操作ノブ34の内側周面に切り込まれた雌ねじ34bが螺合し、これにより本体部20と移動部30が相対移動することにより溶解プランジャー22が前進し、被告カートリッジの第2ゴムガスケット74を押し込む構成であり、本件装置発明の構成とは異なることが明らかである。

(四) したがって、被告装置は本件装置発明の構成要件イ<7>及び<8>を充足しない。

2  争点一4(被告装置は、本件装置発明と均等の範囲にあるか)について

(一) 特許請求の範囲に記載された構成中に相手方が製造等をする製品又は用いる方法(以下「対象製品等」という。)と異なる部分が存する場合であっても、<1>右部分が特許発明の本質的部分ではなく、<2>右部分を対象製品等におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏するものであって、<3>右のように置き換えることに、当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が、対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり、<4>対象製品等が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから右出願時に容易に推考できたものではなく、かつ、<5>対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは、右対象製品等は、特許請求の範囲に記載された製品と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当である(最高裁判所平成一〇年二月二四日判決・民集五二巻一号一一三頁参照)。

そして、右各要件のうち、<1>ないし<3>は、特許請求の範囲に記載された発明と実質的に同一であるというための要件であるのに対し、<4>及び<5>はこれを否定するための要件であるというべきであるから、これらの要件を基礎付ける事実の証明責任という意味においては、<1>ないし<3>については均等を主張する者が、<4>及び<5>についてはこれを否定する者が証明責任を負担すると解するのが相当である。

そこで、被告装置が右各要件を充足するかを、以下検討する。

(二) 本質的部分について

(1) 前記のとおり、均等が成立するためには、特許請求の範囲に記載された構成中の対象製品等と異なる部分が特許発明の本質的部分でないことを要する。右にいう特許発明の本質的部分とは、特許請求の範囲に記載された特許発明の構成のうちで、当該特許発明特有の作用効果を生じるための部分、換言すれば、右部分が他の構成に置き換えられるならば、全体として当該特許発明の技術的思想とは別個のものと評価されるような部分をいうものと解するのが相当である。特許法は、発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もって産業の発達に寄与することを目的としており(同法二条一項)、特許を受けることができる発明は、自然法則を利用した技術的思想のうち高度なものであって(同法二条一項)、特許出願前に公知ではなく、かつ公知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができなかったものに限られる(同法二九条)。そして、発明は何らかの技術的課題を解決することを目的とし、その発明の構成が有機的に結合することによって特有の作用効果を奏するところに特徴がある。これらのことからすれば、特許法が保護しようとする発明の実質的価値は、公知技術では達成し得なかった目的を達成し、公知技術では生じさせることができなかった特有の作用効果を生じさせる技術的思想を、具体的な構成をもって開示した点にあるといえる。このように考えると、明細書の特許請求の範囲に記載された構成のうち、当該特許発明特有の作用効果を生じさせる技術的思想の中核をなす特徴的部分が当該発明の本質的部分であると理解すべきであり、対象製品等がそのような本質的部分において特許発明の構成と異なれば、もはや特許発明の実質的価値は及ばず、特許発明の構成と均等であるとはいえない。そして、右の特許発明における本質的部分を把握するに当たっては、単に特許請求の範囲に記載された一部を形式的に取り出すのではなく、当該特許発明の実質的価値を具現する構成が何であるのかを実質的に探求して判断すべきである。

(2) 本件特許装置は、敏感な薬剤の調製をするために、多室シリンダアンプルとこれを内部に収納する相互にねじ込み可能な二つの管状部材により、静かにゆっくりと注射液を調製する方法を実施する装置の発明であり、持ち運びや取り扱いが容易であるものを提供することを目的としている。

本件公報の記載に加え、《証拠略》によれば、本件特許発明の優先権主張日において、多室シリンダアンプルの構成、注射装置においてネジ機構を用いる構成は公知であり、ネジ機構により注射液を調製する方法についても周知技術であったことが認められる。そうすると、本件特許発明は、これらの構成を結合して、多室シリンダアンプルの後側可動壁部材をネジ機構によりゆっくりと押す構成を採用し、敏感な薬剤の調製を簡易に行うことができる注射液の調製方法及び持ち運びや取り扱いが容易な右方法を実施するための装置の構成を開示した点に特徴があるということができる。そして、前記一で認定判断したとおり、本件装置発明においては、そのような作用効果を奏する装置を具体化し、装置の具体的構成を開示したものであると解すべきであるから、特に本件特許発明にいうネジ機構をどのように構成して多室シリンダアンプルの後側可動壁部材を押し込む構造とし、これを持ち運び、取り扱うのが容易となる構成とするかは、本件装置発明を実現するためには最も重要な部分であり、この部分の構成がまさに本件装置発明の特徴的な部分であるということができる。

(3) 被告装置は、このネジ機構の具体的構成において本件装置発明と構造を異にしていることは前記認定判断したとおりであるから、被告装置は、本件装置発明とは本質的部分において相違するというべきである。

(三) 置換容易性について

(1) 本件装置発明は、前記のとおり、装置の具体的構成を開示したものであると解すべきところ、その構成においては、容器を内部に固定することができ、相互にねじ込み可能な二つの管状部材、すなわち、内部が空洞であって、その空洞部分に容器を収納することが可能であり、容器を収納した状態でそれぞれの管状部材の外周又は内周に切り込まれた雄ねじと雌ねじを螺合することにより容器を固定する、いわゆる万年筆型の構成を採用しているものということができる。

(2) これに対して、被告装置は、本体部20及び溶解プランジャー22と一体的に構成された溶解プランジャー22とは別軸である案内ネジ軸26に切り込まれた雄ねじ26aと、操作ノブ34の内周面に切り込まれた雌ねじ34bが螺合し、これにより本体部20と移動部30が相対移動することにより溶解プランジャー22が前進し、被告カートリッジの第2ゴムガスケット74を押し込む構成を採用している。被告装置は、このような構成を採用することにより、管状部材を分離した上でその内部に容器を入れ込み、再び管状部材をねじ込むという構成ではなく、被告カートリッジを外側から嵌合するという構成を採用することが可能となり、容器の外部からの視認性が良く、容器の着脱も容易であるという作用効果を奏していることは、被告装置の構成より明らかである。

(3) ところで、《証拠略》によれば、ネジ機構をピストンとは別軸に設ける構成の注射装置自体は、本件特許発明の優先権主張日には既に公知であったことが認められるが、このことから直ちに、当業者が本件装置発明の構成を被告装置のような構成に置き換えることに容易に想到することができたということはできない。

その他、本件装置発明の構成を被告装置の構成に置換することが容易であったと認めるに足りる証拠はない。

(4) したがって、被告装置の製造時において、当業者が、本件装置発明の構成を被告装置の構成に置換することに安易に想到し得たと認めることはできない。

(四) そうすると、本件装置発明と被告装置の右の異なる部分を、被告装置のように置換することは、本件装置発明の本質的部分を置換するものであり、また、右置換が容易であったと認めるに足りる証拠はないから、均等の範囲にあると認めることはできない。

3  したがって、被告装置は、本件装置発明の技術的範囲に属するものということはできない。

二  被告方法は本件方法発明の技術的範囲に属するか、被告装置は本件方法発明の実施にのみ使用する物かについて

1  争点二1(本件方法発明は、本件特許発明の請求項4ないし7に記載された発明の技術的範囲に属する装置を用いて行う方法に限定されるか)について

(一) 本件特許権の特許請求の範囲における請求項1は、「ネジ機構」と記載されているところ、被告は、右「ネジ機構」は、請求項4ないし7に具体的に記載されているネジ機構に限定されるから、被告装置が請求項4ないし7の要件を満たさない以上、請求項1の「ネジ機構」の構成を備えていないと主張する。

ところで、特許出願において、多項制が採用されている現行特許法の下で、ある請求項で上位概念で構成を記載した発明を出願し、他の請求項で当該上位概念を具体化した構成で記載した発明を出願することは何ら妨げられず、現にこのような形式で複数の請求項を記載して出願される特許発明が多いことは当裁判所に顕著な事実である。そして、このような場合に、上位概念で構成を記載した発明について、当該上位概念が他の請求項で記載された具体的構成に限定されると解する根拠は見当たらない。上位概念で記載された構成が、発明の詳細な説明における記載を参酌しても、当業者が容易にその実施をすることができる程度の目的、構成及び効果が記載されているといい得ないような場合(特許法三六条四項参照)はさておき、上位概念で記載されている構成であるからといって、直ちに限定的な解釈を採るべきでないことはいうまでもなく、当業者が公知技術、周知技術を参酌して、適宜実施できる程度に具体的に記載されていれば足りるものと解すべきである。そして、前記認定のとおり、本件特許発明の優先権主張日において、多室シリンダアンプルの構成、注射装置においてネジ機構を用いる構成は公知であり、ネジ機構により注射液を調製する方法についても周知技術であったということができるから、本件装置発明の構成要件中に、「ネジ機構」として記載されている構成があるとしても、これを直ちに請求項4ないし7の装置発明において具体的に記載されているネジ機構に限定して解釈する必要性はなく、右各請求項に記載されている装置はもちろんのこと、明細書の記載から当業者が公知技術、周知技術を参酌することにより適宜実施できる構成のものもその技術的範囲に含まれるものと解するのが相当である。

(二) 被告は、本件方法発明の構成要件である「ネジ機構により」との構成が機能的クレーム・抽象的クレームであり、本件特許発明の請求項4ないし7に記載されている装置の発明の技術的範囲に属する装置を用いて行う方法に限定して解釈すべきであると主張する。

しかし、本件方法発明において「ネジ機構」との記載が意味するものは、多室シリンダアンプルの後側可動壁部材の押し込みについて、複数部材の回転方向の相対移動をネジ機構の螺合による動作によって直線方向の小さな動きに変換し、これによりピストンを静かにゆっくりと動かすためのものであることは、明細書の記載より明らかである。そして、このような目的を達成するために、当業者が、明細書に開示されている装置の発明、実施例あるいは公知技術、周知技術を参酌して適宜実施することは可能であるということができるから、本件方法発明における「ネジ機構」との構成について、これを本件特許発明の請求項4ないし7に記載された装置の発明の技術的範囲に属するものに限定して解釈すべき理由はない。

(三) 被告装置は、前記のとおり、本体部20及び溶解プランジャー22と一体的に構成された溶解プランジャー22とは別軸である案内ネジ軸26に切り込まれた雄ねじ26aと、操作ノブ34の内側周面に切り込まれた雌ねじ34bが螺合し、これにより本体部20と移動部30が相対移動することにより溶解プランジャー22が前進し、被告カートリッジの第二ゴムガスケット74を押し込む構成であるところ、多室シリンダアンプルの後側可動壁部材の押し込みについて、複数部材の回転方向の相対移動をネジ機構の螺合によって直線方向の小さな動きに変換して、これによりピストンを静かにゆっくりと動かすためのものであることは明らかであるから、被告装置はネジ機構を備えているというべきである。

(四) したがって、被告装置を用いて行う注射液の調製方法は、本件方法発明による構成要件Bのうち「後側可動壁部材がネジ機構によりアンプル内を前進して」との構成を充足する。

2  争点二2(被告装置は、本件方法発明の実施にのみ使用する物か)について

(一) 本件方法発明の特許請求の範囲は、アンプルが前端部を上にして「ほぼ垂直に保持された状態で」注射液を調製することを構成要件としており、このような態様でない状態で注射液を調製する方法は、本件方法発明を文言上侵害するものでないことは明らかである。

(二) そこで、被告装置を用いて行う注射液の調製方法を検討すると、《証拠略》によれば、被告装置の取扱説明書には、「<カートリッジの取り付けと薬剤の溶解>」との標題の下に、「針先を水平からやや上向きに保持し、カートリッジホルダーグリップを矢印の方向へゆっくり回して下さい。ゴムガスケットが押し込まれて、カートリッジ内で薬剤の溶解が行われます。」との説明があり、その横に針先を水平から概ね三〇度程度の角度となるように被告装置を保持して薬剤の調製を行っている図が記載されていること、被告装置の取扱いを説明したビデオテープにおいても同様に、針先を水平からやや上向きに保持して注射液を調製するように指示されていること、医師が被告装置を現実に使用する患者である児童及びその親(被告装置は、小人症の患者に対しヒト成長ホルモンを注射するのに用いられる。)に対して被告装置の使用方法を説明する際には、被告装置の取扱説明書あるいは患者説明用ビデオテープ、患者説明用パネルを使用して、その操作方法、溶解方法、注射方法を説明していること、被告装置を斜めに保持したまま溶解作業を行うことにより、溶解した液がこぼれるとか、その他の不都合があったとの報告はないことが認められる。

右各事実に加え、被告装置は医薬品である薬剤を調製し、これを注射するための装置であり、患者あるいはその家族がこのような装置を使用する際には、医師及び医薬品メーカーの指示に忠実に従って作業を行うのが通常であることも併せ考えれば、被告装置は、水平からやや上向きに保持して注射液を調製する方法に用いられるのが通常であると推認される。

(三) 原告は、装置が特許法一〇一条二項にいう「その発明の実施にのみ使用する物」ではなく「他の用途」があるというためには、当該用途が社会通念上実用的な方法であることが必要であり、当該装置の構造それ自体の設計目的に合致しないルーズな態様での使用は含まれないとし、被告装置を斜めに保持して注射液の調製を行う方法は、社会通念上実用的な方法であるとはいえないと主張する。

そこで検討するに、特許法一〇一条二号にいう、「その発明の実施にのみ使用する物」とは、その物が社会通念上経済的、商業的ないしは実用的な他の用途がないことをいい、他の用途があるというためには、抽象的ないしは試験的な使用の可能性では足りないというべきであるが、前記のとおり、被告装置は、実際に、水平からやや上向きに保持する方法で注射液の調製に使われていると認められるのであり、そのようなものとして実際に使用者に受け入れられ、商品としての機能を実際に果たしている以上、それを実用的な方法でないということはできず、また、このような注射液の調製方法は、「ほぼ垂直に保持された状態」との文言から通常観念される範囲を明らかに超えているから、被告装置には、実用的な他の用途があるというべきである。

(四) よって、被告装置は、本件方法発明について、特許請求の範囲の文言上は、その技術的範囲に属する注射液の調製にのみ使用する物であるということはできない。

三  争点二3(被告装置を用いて行う注射液の調製方法は、本件方法発明と均等の範囲にあるか)について

1  前記のとおり、特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存する場合であっても、前記一2(一)の<1>ないし<5>の要件を備える場合には、対象製品等は特許請求の範囲に記載された製品等と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当である。そこで、被告装置を針先を水平よりわずかに上向きに保持して薬剤を調製する方法が本件方法発明と均等なものとして、その技術的範囲に属するということができるかを、以下検討する。

2(一)  本質的部分について

(1) 前記のとおり、均等の成立要件にいう本質的部分とは、特許請求の範囲に記載された特許発明の構成のうちで、当該特許発明特有の作用効果を生じさせる技術的思想の中核をなす特徴的部分をいうと解すべきである。

(2) これを本件についてみると、前記のとおり、本件特許発明の優先権主張日において、多室シリンダアンプルの構成、注射装置においてネジ機構を用いる構成は公知であり、ネジ機構により注射液を調製する方法についても周知技術であったということができるから、本件方法発明は、これらの構成を結合して、後側可動壁部材をネジ機構によりゆっくりと押すことにより敏感な薬剤を簡易に調製する方法を開示した点に特徴的部分があるというべきであり、このような構成を採用したことが本件特許発明の本質的部分であると解される。

他方、注射液を調製する際に「ほぼ垂直に保持された状態」とする点については、本件公報中に右構成を採用することの格別の技術的意味や作用効果を示唆する記載は見当たらないが、原告製造に係る本件装置発明の実施品添付の取扱説明書には、注射液を調製する際に、「注射針側を下に向けて本体(注…本件装置発明でいう管状部材のうちの一つに相当する。)を回しながら取り付けると中の液が出てしまいますので必ず注射針を上に向けたまま操作して下さい。」との注意書があり、被告装置の取扱説明書にも同様に、「カートリッジホルダーグリップ(注…別紙物件目録(一)の操作ノブ34に相当する。)を回しているときに、針先を下に向けると薬液がこぼれますから注意して下さい。」との注意書があることからすると、注射液を調製する際に針先から液が漏れないようにする点にその技術的意義があるものと考えられる。そして、注射液を調製する際に、針先から液が漏れないように針先を上に向けること自体は、公知技術に関する公報の記載(乙第二二号証の四の第五図(一〇頁右上欄末行目)及び乙第二二号証の五の第九図(11欄41行目)。ただし、後者については本件特許発明の優先権主張日より後の文献であるが、甲第一二号証によれば同内容の公開公報が右優先権主張日前に公刊されていたと認められる。)においても格別技術的意義を有する事柄として記載されていないことからして、通常に行われている常套手段にすぎないと認められるから、注射液の調製方法として特段新規性、進歩性がある部分とは考えられず、これは、多室シリンダアンプルを使用した注射液の調製方法であっても異なるところはない。なお、《証拠略》によれば、本件方法発明における「ほぼ垂直に保持された状能で」との構成は、出願人が特許庁審査官の拒絶理由通知に対応して手続補正をした際に加入されたものであることが認められるが、右証拠によれば、拒絶理由通知における拒絶理由は、注射液の調製の際、空気の混入を防ぐようにすることは常套手段であるとの点にあったことが認められるから、本件方法発明の右構成は本質的部分であるとはいえないとの前記結論を覆すものではない。

(3) 被告装置を用いた注射液の調製方法は、多室シリンダアンプルの後側可動壁部材をネジ機構でゆっくり移動させて注射液を調製する方法を採用していることは前記のとおりであり、右方法と本件方法発明の異なる部分は、注射液を調製する際に、ほぼ垂直に保持して行うか、水平に近い斜め状態に保持して行うかの点であるから、右相違点は本件方法発明の本質的部分ではない。

(二)  置換可能性について

被告装置は、針先を水平に近い斜めの状態に保持して注射液を調製するものであるが、「ほぼ垂直に保持」するという本件方法発明の構成をこのように置換しても、二室シリンダアンプルの後側可動壁部材をネジ機構を用いてゆっくり押すことにより、敏感な薬剤の簡易な調製を可能としたという本件方法発明の目的を達することは被告も認めるところであって、本件方法発明と同一の作用効果を奏するものということができるから、置換可能性があると認められる。

(三)  置換容易性について

本件方法発明の「ほぼ垂直に保持する」との構成を、被告方法のように、水平に近い斜め状態に保持する構成に置換しても、水平よりも針先が上に向いていれば、注射液がこぼれることがないことは明らかであり、また、二室シリンダアンプルにおいて、注射器を垂直に保持すれば、ネジ機構によるピストンの移動に関係なく前室に薬液が流入することがないが、これを斜め状態に保持した場合でも、連絡通路の大きさが極端に大きい場合でなければ、ピストンの移動に関係なく急激に薬液が前室に流入することがないことは被告も認めるところであって、このことは被告装置の構造上明らかであるから、右部分の置換は、当業者が被告装置の製造時点において容易に想到することができたものであるということができる。

(四)  公知技術からの容易推考性について

本件全証拠によっても、被告方法が、本件装置発明の優先権主張日の時点において、公知技術と同一又は当業者がこれから右出願時に容易に推考できたと認めるに足りる証拠はない。

(五)  意識的除外等の事情について

本件全証拠によっても、被告方法が本件特許発明の出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情があると認めるに足りる証拠はない。

なお、被告は、本件方法発明における「ほぼ垂直に保持された状態で」との要件が、拒絶理由通知に対する出願人の手続補正により付加されたものであることを主張しているが、右の拒絶理由通知の趣旨は、前記のとおり、注射液を調製する際に空気の混入を防ぐようにすることは常套手段であるということにあったものであるから、手続補正により付加された「ほぼ垂直に保持された状態で」との要件は、右の拒絶理由通知における特許拒絶理由を回避するために付加された要件ではないことは明らかであり、しかもこれ自体は前記のように注射液を調製する際の常套手段を記載したにすぎないから、これをもって特許請求の範囲の記載から意識的に除外されたものに当たる特段の事情があるということはできない。

3  なお、被告は、間接侵害の場合には、均等の適用について厳格に解すべきであると主張するが、当該特許方法又は当該特許方法と均等の範囲にある方法の実施にのみ使用する物の製造、販売等は、直接特許権を侵害する場合と同じく特許権の効力を及ばしめるものとするのが特許法一〇一条の趣旨に適合するものというべきであるから、当該特許方法と均等の範囲にある方法の実施にのみ使用される物を製造、販売する行為を間接侵害に含ましめないとする根拠はなく、被告の主張を採用することはできない。

4  したがって、被告装置を「水平に近い斜め状態」で保持して行う被告方法は、本件方法発明と均等の範囲にあるものであって、被告方法は本件方法発明の技術的範囲に属するというべきである。

そうすると、被告装置は、前記認定のとおり、本件方法発明の技術的範囲に属する方法にのみ使用されるものであり、他の用途に使用されることはないから、被告装置を製造、販売する行為は、本件方法発明の間接侵害となるというべきである。

四  よって、原告の請求は理由がある(仮執行宣言を付するのは相当でないから、付さないこととする。)。

(平成一一年二月二二日口頭弁論終結)

(裁判長裁判官 小松一雄 裁判官 高松宏之 裁判官 水上 周)

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